『ミレニアム5』周辺のあれこれ

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拙訳書(共訳)ダヴィド・ラーゲルクランツ『ミレニアム5 復讐の炎を吐く女』(早川書房)が刊行されました。

http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013732/

ということで、本作に関連するちょっとした情報や写真などを、ここでシェアしたいと思います。ネタバレにならない範囲ということで、ほんの少しですが……

まずはこちらの写真、冒頭に出てくる、ストックホルム大聖堂にあるドラゴンと聖ヨーラン(聖ゲオルギオス)の彫像です。“乙女”も左のほうにいます。翻訳中にストックホルムに行く用事があったので、激写してまいりました。

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騎士とドラゴン。『ミレニアム5』に記されているとおり、1498年からここにあります。

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こちらが“乙女”。確かに、ドラゴンから救われたにしては淡々としています。

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リスベットは冒頭、「ループ量子重力理論」を研究しています。なにやらさっぱりだったので、本を何冊か読んでみたら、これが結構おもしろい。『ミレニアム4』でも、リスベットは相対性理論と量子力学の統合について考えていますが、ループ量子重力理論はまさにそれを試みている理論です。

で、こちらの本がとてもおすすめ。

カルロ・ロヴェッリ『すごい物理学講義』竹内薫監訳 栗原俊秀訳(河出書房新社)

http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309253626/

この分野の第一人者が書いた本ですが、ループ量子重力理論に入る前に、古代の原子論からニュートン物理学を経て、アインシュタインの相対性理論、量子力学、とひととおり解説されていて、とてもわかりやすい。時間や空間についての思い込みが根本から覆されて、あまりに想像がつかず、ひじょうにワクワクします。……というのは変でしょうか?

たとえば「時間の起源は、温度の起源と同質である」「過去と未来は、熱によって区別される」と言われても、初めは「??」となるだけですが、読んでいくうちに「ほわぁ……!」と納得させられるのです。

「自らの無知にたいする確固たる自覚こそ、科学的思考の核心である」

「より遠くを見ようとすることや、より遠くへ行こうとすることは、誰かを愛したり、空を眺めたりすることと同じように、生に意味を与える輝かしい営みだとわたしは思う。学びたい、見つけたい、丘の向こうを見たい、リンゴの味を知りたい……その好奇心が、わたしたちを人間にしている」

上の写真は、同じカルロ・ロヴェッリさんの別の本で、こちらはスウェーデン語で読みましたが、日本語版も出ています。こちらも読みやすく、コンパクトでとてもよい本です。『世の中ががらりと変わって見える物理の本』竹内薫監訳 関口英子訳(河出書房新社)http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309253350/

その下にちらりと写っているのは、かのスティーヴン・ホーキング博士のご本であります。

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ミカエルが主要登場人物のひとりに初めて会う、ストックホルムの写真美術館。繁華街から少し離れた、水辺のなかなか素敵な立地です。この写真は、本文にも出てくる、車道をはさんだ反対側にそびえる岩壁の上から撮ったもの。

行ったときにはちょうど、報道写真家、ポール・ハンセン氏の展覧会をやっていました。一枚の写真で深遠な物語を語ることのできる、すばらしい写真家です。報道写真家というのは、ジレンマに悩まされることの多々ある職業だろうと想像しますが、ハンセン氏の写真からはそのあたりの煩悶も伝わってくる気がします。ぜひ彼のウェブサイトで写真を見ていただきたいです。http://www.paulhansen.se

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バングラデシュのブログサイト「ムクト・モナ」は、本文中にあるURLのとおりで実在します。開設者アビジット・ロイ氏は2015年、鉈で襲撃されて亡くなりました。イスラム過激派の犯行とみられています。ムクト・モナは「自由な精神」という意味だそうです。

最後に、BGMを2曲。これらの曲が小説中にどんな形で出てくるかは秘密です!

少々脱線もありましたが、とりあえずこのへんで。

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『兄弟の血-熊と踊れII』刊行されました